方法
システムデザイン・マネジメントの考え方や手法を取り入れた,個々の博物館のミッションからの必要機能の同定や,顧客価値連鎖分析を用いたステークホルダーの関心事項特定により,博物館がどのような機能を発揮すべきかということから,評価項目を作成することができるようにしました。
博物館が地域においてどのような関係性を築いていくのかを念頭に置き,多様なステークホルダーが期待する価値を提供しているかどうか,博物館ミッションを体現するような活動内容となっているかを評価しなければならないが,ここには複数の観点が存在しています。
そこで,多様な要素を内包する複雑な事象を多視点から捉え構造化し可視化できること,多様な分野の人と共有化しやすいというメリットを持つシステムズエンジニアリングを取り入れ,評価フレームワークを作成しました。
まず,地域における博物館が果たすべきミッションを再考し,そのミッションを実現できるような活動を行っているかどうかを評価できるようにしました。
具体的には,博物館ミッションから機能抽出・分解しつつ,抽象度の異なるレイヤーによる構造化を行ないました。
次に,設置者,運営者,来館者以外のステークホルダーの目線を取り入れた評価をするため,顧客価値連鎖分析を行い,対象となる博物館を取り巻くステークホルダーを同定し,価値の連鎖を分析しました。ミッションから分解した各機能に興味関心を持つと思われるステークホルダーを割り当て,関心事項を評価の観点とし,そこから評価項目を導出するためのフレームワークを作成しました。
本研究の意義
•博物館の運営や活動そのものについての評価方法はたくさんあるが,本方法は館のミッションや地域の中での在り方との繋がりを重視したものである。
•博物館が持つミッションをサブ機能に分解し,顧客価値連鎖分析からステークホルダーの関心事項を導き出し,両方の視点を統合し体系的に作成することのできる評価フレームワークを作成。
•ミッションの機能分解を行っていくプロセスにおいては,明文化されていないミッションが明らかになることがあり,関係者内部での新たな気づきを促すことになった。
•顧客価値連鎖分析を行うことで,周辺施設との関係性の重要性が見えてくるといった効果が見られた。
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•利用者や地元企業なども含めたステークホルダーを加えたワークショップができるとなお良いと思われる。
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•顧客価値連鎖分析の活用により,多視点から俯瞰的に課題や新価値の検討を行うことができる。
→ 博物館の新価値創出を評価項目に加えることもできる。
プロセス
1.システムズエンジニアリングのイネーブラーフレームワークの考え方に基づき、各博物館が果たすべきミッションから必要機能を分解・抽出する。その機能が果たされているかどうかが評価基準となる。
2.ステークホルダーの同定は、事前のワークショップで作成したCustomer Value Chain Analysis(顧客価値連鎖分析)を参考にする。
3.1で抽出した機能に2で同定したステークホルダーをアロケートし、評価項目を作出する。これにより、多様なステークホルダーの関心事項から博物館機能を評価できるようにする。
イネーブラーフレームワーク
博物館ミッションを成り立たせる要素
=イネーブラーを同定する
顧客価値連鎖分析(CUSTOMER VALUE CHAIN ANALYSIS)
ステークホルダー間の価値の連鎖を可視化する
評価項目を作るためのフレームワーク
ミッションから分解した博物館の果たすべき機能と各ステークホルダーを結びつけ,ステークホルダーが関心を持つ観点から評価項目を作成する